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最高裁判所第一小法廷 昭和48年(オ)447号 判決 1974年4月25日

主文

理由

上告人の上告理由第一点の(イ)について。

所論東京証券取引所受託契約準則五条は、誤報若しくは誤認による損失についての紛争が生じることを未然に防止するための訓示的規定と解すべく、当事者が同条所定の書面による契約をしなかつたからといつて、当事者間に行なわれた売買取引の委託の効力に消長をきたすものとはいえない。また、本件買付け委託が普通取引であることは原審の確定するところであつて、所論委託保証金の差入れを必要とするものでないことは明らかである。したがつて、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第一点の(ロ)について。

所論東京証券取引所受託契約準則一三条の九は、顧客が所定の時限までに買付け代金を会員に交付しないときには、会員は、任意に、当該売買取引を決済するために、顧客の計算において買付け証券を売却して買付け代金に充当する権限があることを定めたものであるが、会員は、このような場合、直ちに買付証券を売却すべき義務を負うものではない。したがつて、その権利行使の時期が特に信義則上顧客にとり不当と認められる特段の事情がないかぎり、会員は、証券の市場価格の変動による顧客の損失について、なんらの責任を負わないものと解するのが相当である。それゆえ、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点および第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は原判決挙示の証拠に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。それゆえ、論旨は採用することができない。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)

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